『人間の証明』を観た。

DVDで映画『人間の証明』を観ました。
「母さん、あの帽子、どうしたでせうね。
 ええ、夏碓氷から霧積へ行くみちで、渓谷へ落としたあの麦藁帽子ですよ」
で有名な、あの『人間の証明』ですよ。母さん、あれは好きな映画でしたよ。
って、実は今回初めて観ましたけど。

同じく有名な『人間の証明のテーマ』も、松本人志さんと高須光聖さんが
やっていラジオ番組「放送室」のエンディングテーマで使われていて、
聞けば「ああ、『放送室』のヤツだ」と思ってしまうような状態で。
彼らもこの映画への思い入れが強くてこの曲をえらんだんでしょうけどね。

オープニングのBGM聞きながら、なんとなく『ルパン3世』みたいだなと
思ってたら、音楽は大野雄二さんが出がけてたんですね。
そしてあの『人間の証明のテーマ』も!
おいらはまたどっかそのへんの人が、Queenの『ボヘミアン・ラプソディ』を
パクった アレンジしたんだろうと勝手に思ってました。(爆
大野先生、ごめんなさい。


さてこの映画はたぶんミステリーという分類のはずなんですが、
確かにとってもミステリー、謎の多い映画でしたよ。
細かいところを取り上げればもう、キリがないくらい。

タイトルに続いて出てきた、ファッションショーのシーン。
これがムダに長い。
あんまりにも長いので、ムダに計ってしまいました。
最初のショーで4分17秒。
次は小川宏ショー(?)での紹介で、12秒。
選考会でのシーンで、松田優作さんの回想シーンを除いて2分33秒+8秒。
計7分10秒。
実に全体の5.4%がファッションショーですよ。こりゃ長い。
山本寛斎さんが手がけたものらしいですけど、ここまで長いと寛斎さんを
逆恨みしたくなってきます。寛斎さんは悪くないのに。
このシーンをもうちょっと削ったらもっと違う部分を描き込めたでしょうに、
どうしてここまでファッションショーを引っ張りたかったんでしょうか。謎。

デザイナー・八杉恭子の息子・郡恭平役で岩城滉一さんが出てました。
小川宏ショー(?)出演時に母親のことを聞かれて
「おふくろ意外に若いんでね、正直言ってちょっとショックでした」
その声の方がショックだよ!こんなの『北の国から』の草太兄ちゃんじゃない!
ずっと違和感が残ったままでしたけど、どうやら吹き替えだったらしいですね。
なぜ吹き替えだったのか。
観た方のレビューでは「下手だったため」「声がしょぼかったため」という説が
ほとんどでした。
でも映画のデビュー作『新幹線大爆破』も佐藤純彌監督でそのぐらいわかって
キャスティングしてるんじゃ?
・・・『人間の証明』が封切りになった1977年10月8日の少し前、その年の
7月に諸事情で警察のご厄介になっておられるそうなので、その辺のところも
影響していたかもしれませんね。これは勝手な推測ですが。謎。

行方不明になったなおみを巡って、不倫相手の新見隆(夏八木勲)を糾弾する
なおみの夫・小山田武夫(長門裕之)。
なんだかんだあってーー
「じゃあ、この時計を持っていたヤツが、女房を殺したんですね」
一番その可能性を信じたくない立場の人が、何の証拠もないのにあっさり
殺しちゃダメでしょう!?
執念もってなおみ殺害(結局そうなんだけど)の犯人探しをするのかと思いきや、
浜辺で遺体が上がって、亡骸を抱えながらこの2人はそのままフェードアウト
しちゃいました。彼らはどうしたかったんでしょう? 謎。

ここでまた謎な部分が。
ニューヨークに逃げた郡恭平のもとに、ひき逃げ現場で落としたオルゴール付
時計に「人ごろし」とメッセージをつけたものが届けられます。ホテルの
フロントで受け取った郡恭平、後ろからポンと肩を叩かれ、
「郡恭平だな。麹町署の棟居だ」
ここで「人ごろし」のメッセージをつけて時計を郡恭平に送りつけたのは、
いったい誰か?
タイミング的には、動揺を誘って棟居刑事がやったようにも思えます。
でも、刑事がわざわざ「人ごろし」なんてメッセージ、つけるはずがない。
だとしたら新見&小山田連合軍が送りつけたのか?
簡単に郡恭平の居場所を突き止められるのもおかしいけど、仮に突き止められた
として、時計を送りつけて「人ごろし!」言ってやったぞ、あースッキリした、
なんてことにはならないでしょ?
普通なら、居場所がわかったのなら、郡恭平のところに直接行くはず。
警察が当てにならないと思っているなら、なおさら。
新見が警察になおみ殺害を調べて欲しいと依頼する際も
「彼女の血液型と、この時計に残っている血痕が同じ血液型なんです」
アンタそれどうやって調べたん!? てぐらい行動派だったのに。
(行動派の域を超えているような気もしますが)
うーん。どっちが送りつけたにしてもやり方が稚拙すぎる。謎。

解けない謎だらけかと思えば、いとも簡単に謎が解けちゃったり。
ジョニー殺害時の最後の言葉「ストゥハ・・・」も観客が推理する前にあっさり
棟居刑事が解いちゃうし。ジョニーが倒れて4分半後には謎解明。
もう1つの謎の言葉「キスミー」なんか、飲み屋(おでん屋「たこ安」)に
偶然入ってきた大滝秀治さんと佐藤蛾次郎さんが小泉八十の詩についての解釈を
周囲に聞こえるように大きな声で議論していて、それが謎解きのヒントになった、
て、どんだけ都合がええねん的な展開で。

蛾次郎「しかし甘いでしょう?僕は甘いと思うな」
秀治「甘くてどうしていけないんだ?」

この謎解きに対する言い訳かなぁ、と一瞬思ったり。
それに気づいて謎を解いちゃう棟居刑事が“ひらめきすぎ”なんでしょうけど、
もっとひらめきが冴えているのが、最初に八杉恭子に事情聴取に訪れたとき。

「八杉恭子、こんなところで会えるとは思いませんでしたよ。
 昭和24年の春、新橋の闇市であったことがあります」

彼が少年時、進駐軍に乱暴されそうになっていた女性を助けようとした父親が
返り討ちにあい、その怪我がもとで2日後に亡くなったという、生涯忘れられない
事件ではあったでしょうが。
それから25年以上経っているのに、ぱっと会った瞬間に「あの時の女だ!」と
気づいてしまう棟居刑事。ひらめき冴えすぎ。
そこで気づくぐらい鋭いんだったら、ジョニー殺害事件時に八杉恭子を知った
時点で気づくんじゃないかなぁと思ったりして。

都合良すぎるのは、ケン・シュフタン刑事と棟居刑事との関わりだってそう。
ここまで都合良すぎると、もうなんでもありな感じがしてきて、謎もなんだか
謎じゃないような、どうでもいいような。
だからわざわざ射撃場でのシーンでシュフタン刑事は射撃の名人で、彼が
狙うと一発で相手の心臓を撃ち抜いちゃうんだよね〜という説明描写なんか
いらないんじゃないかな。


あー、挙げはじめればキリがない。
良かった部分もありましたよ。
棟居刑事と横渡刑事(ハナ肇)がホテルの地下駐車場へ移動しながら八杉恭子に
問い詰めるシーン。
棟居刑事がカッコ良かった?横渡刑事が名アシストしてた?
それもありますけど、ほら、あのシーン。

「話はまだ終わってないんだよ、奥さん!
 あんた昔、米軍相手のバーで働いていたことがありましたね。
 戦争が終わって間もない頃ですよ。
 闇市アメリカ兵に乱暴されたこと、
 そしてその時、あんたを助けようとして逆にアメリカ兵に殺された男を、
 覚えてますか?それが俺の親父です」

と詰め寄られた時の、ハンカチをたたむ手が震えている八杉恭子。
動揺しながら、必死に抑えて取り繕おうとしているシーン。
見ていてちょっとどきどきしたなぁ。
たたみかけるように、横渡刑事が小泉八十の詩を諳んじるところ。
あそこも良かったなぁ。

それからやっぱり霧積の崖での最後のシーンでしょうか。
画が綺麗すぎます。
そして『人間の証明のテーマ』だもん。
逮捕しようとした横渡刑事を制する棟居刑事は、あれだけ冴えてるんだもん、
ほっとけば八杉恭子が飛び降りることぐらい想像ついたでしょう。
そこまで確認してはじめて『人間の証明』だったのか。


タイトルとテーマが若干しっくりこないなぁと思っていたら、小説の方では
実の子供を刺すような女にも人間の心があるはずだ、もし人間の心があるなら
必ず自ら自供せずにはいられないようにしむけてやる、彼女も人間であることを
証明してみせる、というのがテーマだったようです。
それなら、わかる。
映画の方はどうだっただろう?
うまく歌に誤摩化されちゃった気がするなぁ。