映画『ヒミズ』を観て、あれこれ思う

映画『ヒミズ』を観ました。
人気漫画原作を大胆にリライト、震災直後の被災地で撮影を敢行、主役の2人がヴェネツィア
国際映画祭の新人賞をW受賞、と封切り前からかなり話題になっていた作品。
それでも、観る決め手となったのはやはり“園子温監督作品だから”、これに尽きます。
愛のむきだし』『ちゃんと伝える』と観て、『冷たい熱帯魚』でついにMaxの衝撃を
受けてしまい、以降はさらなる衝撃をと期待しつつ、園子温作品を観ています。
ある種の中毒に似た状態かもしれません。

そのくらい、『冷たい熱帯魚』は凄かった。
その題材となった埼玉愛犬家連続殺人事件がそもそも、凄かった。
当時、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件インパクトのあるニュースに隠れてあまり
印象に残っていなかったが、実はこんなことになっていたなんて。
元ネタといえる、あの映画でいえば社本にあたる人が書いた『共犯者』がまた、エグかった。
この本がオリジナルだとすれば、園子温監督は結末を変えた。
実際には生きて逮捕となったところを、そうしなかった。させなかった。
それがまた良かった。


で、『ヒミズ』。

冒頭からスクリーン一面に広がる鉛色の空と被災地。
そこに、少年と青年のはざまにいる男が一人立ち尽くす。
瓦礫の中に埋もれるようにいる洗濯機の蓋をあけると、中には拳銃が一丁。
銃口をみずからのコメカミにあて、引鉄を引く―。

被災後すぐの当時の状況を思えば、その中でなかば強行してでも行った撮影はそれなりに
意義のあることだったと思うんです。
そのくらい、園子温監督の中に今、強烈に訴えたいことがあったのでしょう。
今までの価値観が吹き飛ぶほど激変した世界の中で、おのれの足でしっかり立つことはおろか
何かにすがって留まることもできない、心身ともに打ちひしがれて、すぐ手の届くところに
死の淵があることがありありとわかる―そんな先がまったく見えない、想像すらできない中、
それでも生きろ、もがいてでも無様でも、死に物狂いででも生きろ!と。

とは思うのですが。
観終わって、でも、どうにも腑に落ちませんでした。

どうあがいても変えることのできない自分の未来に絶望し、追いつめられた少年・住田が、
死の淵まで行きながら最後は生きぬくことを決意して、生還する。
この心が大きく転換するところが、この物語のクライマックス、“きも”なんじゃないの?
今際の瞬間に、住田くんが何を考えて、何が最後に気持ちを後押ししたのか、その心の葛藤や
変化がなんにも描かれていない。
発砲音で目覚めた茶沢さんが川に向かって住田くんへの心情を吐露してなじる中、突然
住田くんが川から現れる。そしてエンディングに向かって走る。ガンバレと叫びながら。
…あまりにも唐突すぎませんか?
唐突すぎるというよりも、話がつながっていない。
これでは、冒頭からあれだけ何回も刷り込んだ“拳銃での自殺”の伏線を単に裏切ってみました、
これだけの効果しかありません。
正直、拍子抜けしました。


あまりにも納得いかなかったので、見終わった方々のレビューをいくつか読んでみて、
わかりました。
原作の漫画では、やはり住田くんは命を絶つ選択をしたんですね。
それを園子温監督は、震災の直後ということもあり、こんな先の読めない悲観するような未来が
訪れたとしても生きなければならない、生きてほしい、というエンディングに変えるべきだと
思ったのでしょう。
なーんだ、それじゃあ住田くんの心境の変化が無理やりすぎたのも仕方ないか。あははは。

って、なるかっ!

そんな話をしていたら、一緒に観た相方がこんなことを話してました。

「例えばね、こんなのどう?
 時代設定は漫画のままで、住田くんもやっぱり原作のとおり、死ぬの。
 死ぬんだけど、茶沢さんには住田くんとの間に子ができるの。
 茶沢さんは勝手に死んだ住田くんのことを責めながら、でも住田くんの分まで
 住田くんの血を受け継いだ子供と一緒に生きるって強く誓うの。
 それから10年後、震災にあって、茶沢さんが子供と必死に生きようとする、
 そのときに被災地のシーンを使えばよかったんじゃないの?
 今回のはどうしても、無理やり震災地の風景を入れ込んだように感じて…」

おいらも同じように感じていました。
被災地で、銃口を自分のコメカミにあてるシーンを撮る(もしかしたら合成かもしれませんが)、
そのことにどれだけの意味があったのか、と。
今回は原作で死なせたものを生きるように変更して、ちょうど『冷たい熱帯魚』と真逆に
なる設定になりました。
最終的には「生きろ!」と言いたかったのはわかるのですが、でも被災地でのそのシーンを見て
例えば被災された関係者の方々はどう感じるかなと思うと…なんともね。
だからこそ、住田くんに生き抜く覚悟を決めさせたものは何だったのか、描いてほしかったな。
それがただただ、残念でした。


あと、出演者陣についてもちょっとだけ。
園子温監督作品で常連さんとなりつつある、吹越満さん、でんでんさん、渡辺哲さん、
諏訪太朗さん、神楽坂恵さん、黒沢あすかさん。素晴らしい役者陣です。
これ、観る人によって好き嫌いがわかれるところでしょうけど、、貸しボート屋の電飾、
ローソクシーンも含めて、どうしても必要以上に以前の作品のイメージを引っ張って
しまうんですよね。
貸しボート屋を改装してみんなで踊るシーンなんか、『冷たい熱帯魚』で死んだ人たちが
あの世でみんな楽しくやってますよ、ってアナザーワールド的な感じに見えましたもん。
それとなく匂わす、ぐらいの演出ならこっそり楽しめそうな気もするのですが。
でも今回はなんといっても渡辺哲さん、いい役にこたえる素晴らしい演技でした♪


とまぁそんな訳で、ありきたりなまとめではありますが、次回作に期待。
と思っていたら園子温監督、早くも次回作が発表になってました。
タイトルは『希望の国』、今度はオリジナル脚本で大震災がテーマにかかわってくる内容
とのこと。しかも今公開予定らしいですよ。って公開ラッシュだね、早っ!
           ↑
          「今秋」らしいです。訂正致します(1/30)